ワンクラス上のポジションや、高級感あるスタイリング、快適で上質な走り、優れた環境性能を持つスクーター、PCXシリーズ。その中でこれまでのPCX、PCX150、PCX e:HEVの3モデルが、スタイリングの刷新、エンジンの4バルブ化、フレームの新設計などによるフルモデルチェンジで登場しました。すべてに新しさとここち良さを感じる仕上がりです。細部まで、使い勝手の良さにこだわった作りなっていました。
〈PCX〉
新型PCXシリーズは高出力・低フリクションで、耐久性と静粛性、燃費性能に優れたスクーター用グローバルエンジン「eSP(イーエスピー)+(プラス)」を搭載しています。
「eSP」は
enhanced(強化された、価値を高める)
Smart(洗練された、精密で高感度な)
Power(動力、エンジン)
の略で、低燃費技術やACGスターターなどの先進技術を採用し、環境性能と動力性能を高めたスクーター用エンジンの総称です。「+(プラス)」となって、4バルブ、油圧式カムチェーンテンショナー・リフター、ローラーベアリングなどが加えられ、さらに高出力・低フリクションになりました。ボア・ストロークは53.5mm×55.5mm、排気量は124cc、前のモデルに比べボアが増え、ストロークが減っています。
停車後自動的にエンジンを停止し、発進時はスロットル操作だけで再始動する「アイドリングストップシステム」が継続採用されています。オンにすると、信号などでの停車時、エンジンがストップします。再稼働はアクセルを開けた時。その都度ACGスターターがエンジンをかけ直します。
新設計のY字スポーク・ホイールに装着されたフロント14インチタイヤは「100/80」から「110/70」へと変更しタイヤ幅をアップし扁平率を下げています。フロント・ブレーキはφ220mmのディスクを装着、新PCXシリーズは全タイプ、フロントのみが作動するABSが標準装備されています。リアタイヤは「120/70-14」から「130/70-13」へ変更、外径同一でトレッドとエアボリュームを増しています。リアブレーキもφ220mmのディスクを装着しています。
新型PCXシリーズには、後輪への駆動力レベルを必要に応じて任意に選択できる「Honda セレクタブル トルク コントロール」が装備されています。エンジントルクを最適化し、後輪スリップを制御します。
ヘッドライト部分はロービーム、ハイビーム共にPCXらしさの表現として横一列に配置されています。そこから車体後方に向かってシグネチャーランプ(ポジションランプ)のラインを作り、車体のデザインとマッチさせています。またシグネチャーラインをフォローするように細い5本の光のラインを並行して配置しています。
PCXの先進性を強調しているこだわりのひとつに「ストップランプ」があります。今は点灯していませんが、2本の細いラインが強い光を放つマルチオプティクスという技術を応用し上下に分割された赤いテールランプのエックスを完成させるように発光します。
新型PCXは乗りやすさも秀逸です。アクセルを回すだけで得られる滑らかな加速、ギアチェンジ操作をすることなく目標スピードまでストレス無く速度を上げることができます。無段変速式のVマチックの恩恵を感じます。さらに滑らかに回る素性のエンジンに、ラバーマウントされたハンドルなども効果があるのでしょう、両グリップにはエンジンから伝わる振動も感じません。ABS装着のフロント・ディスクブレーキ、そしてリア・ディスクブレーキは、ハンドル左右のブレーキレバーで操作します。操作性、効き味とも十分です。コーナリング時の、リア・ブレーキでのラインコントロールはフットブレーキよりも容易です。車重132kgの車体は取り回しも楽、実用性を十分満たしながら乗っていて楽しい気分にさせてくれます。
〈PCX160〉
PCX160とPCXの外観上の違いは、シート下の左右エンブレムか、前後フェンダーの原二マークの有無、あるいはナンバープレートです。
PCX(124cc)のボア・ストローク53.5mm×55.5mmに対しPCX160は60.0mm×55.5mmです。従来モデルのPCX150と比べると7.6ccアップの156.9ccになっています。PCXと比べるとボアアップによる排気量増加で、最高出力は3.3PS、最大トルクは0.3kgf・mアップ しています。
新型PCXシリーズの給油口はシート手前下側にあります。給油時は、メインダイアルを「SEAT FUEL」に合わせ、その右隣に位置するシーソースイッチの「FUEL」側を押し込みます。するとカバーが自動的に開きます。スマートキーシステム採用のため、大前提としてキーを身に付けておくことが必要です。燃料タンク容量はどのモデルも8.1ℓです。キャップは手動で開栓、カバー内側に給油時に便利なキャップ・ホルダーが付いています。
PCX160のメリットは、自動車専用道や高速道路を使用できることです。料金所での通行をスムーズにするETCは、シート下のラゲッジスペースなどに装着可能です。写真は実際の装着例です[ETC2.0車載器キットは別売のアクセサリーパーツです。純正は装着価格:¥50,380 (消費税込み)です]。 ETCカードの脱着は、比較的容易です。
その、ラゲッジボックスは容量を従来モデルの28ℓから30ℓに拡大しています。収納はますます便利になっています。フロントインナーボックスには従来のシガーソケットからUSB Type-C、3アンペアのUSBソケットが採用されています。スマホの充電などがより簡単になりました。また、 収納容量が1.7ℓに増え、荷物が出し入れしやすくなっています。
PCX160はPCX(124cc)に比べ排気量が大きくなっている分、動力性能がアップしていることを感じます。出足も、中間速度域での加速も速いことを実感しました。首都高速を走行しましたが、スピード、加速ともクルマの流れに付いていくには十分で、実用上問題ないことを確認しました。高速道路ので走行安定性は新設計のフレームなどによる効果も大きいと思われます。軽量で、剛性を増し、リアのアクスル・ストロークも従来モデルに対して10mm増加させ95mmにするなどしています。
エンジンのボア・ストロークはPCX(124cc)の53.5mm×55.5mmに対し60.0mm×55.5mmです。ロング・ストロークからショート・ストロークへの変更で、力強さはハンドルから伝わる振動でも感じました。
さて、PCX(124cc)にするか? PCX160を選ぶか? もし、購入に迷うようでしたら、自動車専用道や高速道路を利用するか否かで決めましょう。125cc以下の通行規制区間*も確認しておきしましょう。
そうでなければPCX(124cc)の選択をお勧めします。走り心地も滑らかで、エンジンと車体のマッチングも良く、トータルとして十分完成していることを実感したからです。普段使いでパワー不足を感じることはないでしょう。
*一般社団法人日本二輪車普及安全協会
二輪車通行規制区間情報
https://www.jmpsa.or.jp/society/roadinfo/
等をご参照ください。
〈PCX e:HEV〉
新型PCXシリーズの中でも、ひときわ目立つ存在のPCX e: HEV。パールジャスミンホワイトに塗られたボディに反射光を浴びて、一際(ひときわ)輝いています。e: HEVは「イー、エイチ、イー、ブイ」 と読みます。PCXシリーズに量産二輪車用として世界初のハイブリッド車が加わったのは2018年です。それから3年、進化した新PCXシリーズにも継続してハイブリッドタイプが設定されました。
駆動力は新型PCXのesp +を採用した124cc4ストローク4バルブエンジンにスターター用のモーターを加えています。
PCX e: HEVの全長、全幅、全高、軸距、最低地上高、シート高の寸法は、PCX、PCX160と同じです。まったく同じパッケージの中にガソリンと電気を使うハイブリッド車に必要な要素が詰め込まれています。重量増は132kgから136kgへの4kg。目に見える違いは、カラーリングとエンブレムだけです。シルエットは一切崩れていません。
「e:」に込められた意味は、”electric”(電気) を”energy”(原動力)にして、みんなの笑顔と元気を力強く”energize”(活気づける)していくこと。Honda e:TECHNOLOGYはエネルギーを有効に活用し、カーボンニュートラルの実現を目指す電動化技術です。
走行シーンやライダーの好みに合わせ、モーターアシストの特性を切り替え可能にしているe: HEV。デジタルスピードメーター内に、リラックスした快適な走行と適度のアシストを両立させた「D」モードか、アシスト力が強まりスポーツ性の高い走行によって走る楽しさをより感じる「S」モードを選択しているかが表示されます。
e:HEVのタイプはハイブリッド車としての特別感を強調するためエンジン車とは違ったカラーリングが施(ほどこ)されています。ヘッドライト周りではシグネチャーランプの裏側のブラケット色をクロームブルーとし消灯時は淡いブルーに見えるように演出されています。
e:HEVの頭脳部分にあたるPDU(パワー・ドライブ・ユニット)は、「e:HEV」エンブレム内側上方に装着されています。PDUは「イグニッション」「PGM-FI」「モーターアシスト」「充電」「走行モード」を制御します。
「リチウムイオンバッテリー残量」は、PCXやPCX160が「燃料残量」として全幅を使っていたスペースを、半分ずつ分け合って表示させています。「ふきだし」形状の表示は変形バーグラフで「チャージ・アシストレベル」を表示します。「ASSIST」されているときは上側の線を時計回りに、「CHARGE」しているときは短めの下側の線を反時計回りにバーグラフが進みます。
モーターのアシスト強弱を変更する「D」と「S」モード切り替えは、走行中も可能です。モードスイッチは左手人差し指で操作します。アイドリングストップも、「D」「S」両モードから、モードスイッチ長押しで変更できます。
PCX e: HEVのモーター出力のエネルギー源、リチウムイオンバッテリーはタンデムシートの下にあります。高い出力型の48V系を継続採用しています。リチウムバッテリーとバッテリーマネージメントユニットをリチウムイオンバッテリーパックに収斂(しゅうれん)をすることでコンパクトサイズを実現、PCXの車体サイズに収まるパッケージとするとともに、ラゲッジボックス容量を従来の23ℓから24ℓに拡大しています。
アクセルを気持ち多めに開けると、ACGスターターがエンジンの駆動力に加わり推進力が増加します。「D」モードから「S」モードに切り替えるとさらに強く押し出されるのを感じることができます。
「では実用上、PCX e:HEVは必要か?」と問われると返答に窮(きゅう)します。新型PCX(エンジン車)は動力性能を含め、それだけで十分完成しているからです。また、燃費がいいとしても税込9万円以上の価格差を考えると「経済的」とまでは言い切れません。
それでも「PCX e:HEV」は2輪車が時代とともに進化していく過程での未来形のひとつであることは間違いありません。オールド・バイク・ファンとしては、新時代を睨(にら)む技術挑戦と、それを顧客と共有する姿勢に、往年の「ホンダらしさ」を感じます。そこに大いなる付加価値を感じます。
Photos : 原 富治雄 Report:古谷 重治
PCX 主要諸元 | ||
車名・型式 | ホンダ・2BJ-JK05 | |
全長(mm) | 1,935 | |
全幅(mm) | 740 | |
全高(mm) | 1,105 | |
軸距(mm) | 1,315 | |
最低地上高(mm) | 135 | |
シート高(mm) | 764 | |
車両重量(kg) | 132 | |
乗車定員(人) | 2 | |
燃料消費率 | 国土交通省届出値: | 55.0(60)〈2名乗車時〉 |
(km/L) | 定地燃費値 | |
(km/h) | ||
WMTCモード値 | 47.4(クラス 1)〈1名乗車時〉 | |
(クラス) | ||
最小回転半径(m) | 1.9 | |
エンジン型式・種類 | JK05E・水冷4ストロークOHC単気筒 | |
総排気量(cm³) | 124 | |
内径×行程(mm) | 53.5×55.5 | |
圧縮比 | 11.5 | |
最高出力(kW[PS]/rpm) | 9.2[12.5]/8,750 | |
最大トルク(N・m[kgf・m]/rpm) | 12[1.2]/6,500 | |
始動方式 | セルフ式 | |
燃料供給装置形式 | 電子式〈電子制御燃料噴射装置(PGM-FI)〉 | |
点火装置形式 | フルトランジスタ式バッテリー点火 | |
燃料タンク容量(L) | 8.1 | |
変速機形式 | 無段変速式(Vマチック) | |
タイヤ | 前 | 110/70-14M/C 50P |
後 | 130/70-13M/C 63P | |
ブレーキ形式 | 前 | 油圧式ディスク |
後 | 油圧式ディスク | |
懸架方式 | 前 | テレスコピック式 |
後 | ユニットスイング式 | |
フレーム形式 | アンダーボーン | |
カラー | マットディムグレーメタリック | |
キャンディラスターレッド | ||
ポセイドンブラックメタリック | ||
パールジャスミンホワイト | ||
マットコスモシルバーメタリック | ||
メーカー希望小売価格(消費税込み) | 357,500円 | |
(消費税抜本体価格 325,000円) |
PCX160 主要諸元 | ||
車名・型式 | ホンダ・2BK-KF47 | |
全長(mm) | 1,935 | |
全幅(mm) | 740 | |
全高(mm) | 1,105 | |
軸距(mm) | 1,315 | |
最低地上高(mm) | 135 | |
シート高(mm) | 764 | |
車両重量(kg) | 132 | |
乗車定員(人) | 2 | |
燃料消費率 | 国土交通省届出値: | 53.5(60)〈2名乗車時〉 |
(km/L) | 定地燃費値 | |
(km/h) | ||
WMTCモード値 | 45.2(クラス 2-1)〈1名乗車時〉 | |
(クラス) | ||
最小回転半径(m) | 1.9 | |
エンジン型式・種類 | KF47E・水冷4ストロークOHC単気筒 | |
総排気量(cm³) | 156 | |
内径×行程(mm) | 60.0×55.5 | |
圧縮比 | 12 | |
最高出力(kW[PS]/rpm) | 12[15.8]/8,500 | |
最大トルク(N・m[kgf・m]/rpm) | 15[1.5]/6,500 | |
始動方式 | セルフ式 | |
燃料供給装置形式 | 電子式〈電子制御燃料噴射装置(PGM-FI)〉 | |
点火装置形式 | フルトランジスタ式バッテリー点火 | |
燃料タンク容量(L) | 8.1 | |
変速機形式 | 無段変速式(Vマチック) | |
タイヤ | 前 | 110/70-14M/C 50P |
後 | 130/70-13M/C 63P | |
ブレーキ形式 | 前 | 油圧式ディスク |
後 | 油圧式ディスク | |
懸架方式 | 前 | テレスコピック式 |
後 | ユニットスイング式 | |
フレーム形式 | アンダーボーン | |
カラー | キャンディラスターレッド | |
マットディムグレーメタリック | ||
ポセイドンブラックメタリック | ||
パールジャスミンホワイト | ||
メーカー希望小売価格(消費税込み) | 407,000円 | |
(消費税抜本体価格 370,000円) |
PCX e:HEV 主要諸元 | ||
車名・型式 | ホンダ・2AJ-JK06 | |
全長(mm) | 1,935 | |
全幅(mm) | 740 | |
全高(mm) | 1,105 | |
軸距(mm) | 1,315 | |
最低地上高(mm) | 135 | |
シート高(mm) | 764 | |
車両重量(kg) | 136 | |
乗車定員(人) | 2 | |
燃料消費率 | 国土交通省届出値: | 55.4(60)〈2名乗車時〉 |
(km/L) | 定地燃費値 | |
(km/h) | ||
WMTCモード値 | 51.2(クラス 1)〈1名乗車時〉 | |
(クラス) | ||
最小回転半径(m) | 1.9 | |
原動機 | エンジン型式・種類 | JK06E-K1N・水冷4ストロークOHC単気筒 |
電動機種類 | 交流同期電動機 | |
総排気量(cm³) | 124 | |
内径×行程(mm) | 53.5×55.5 | |
圧縮比 | 11.5 | |
最高出力(kW[PS]/rpm) | エンジン | 9.2[12.5]/8,750 |
電動機(モーター) | 1.4[1.9]/3,000 | |
最大トルク(N・m[kgf・m]/rpm) | エンジン | 12[1.2]/6,500 |
電動機(モーター) | 4.3[0.44]/3,000 | |
電動機(モーター)定格出力(kW) | 0.36 | |
始動方式 | セルフ式 | |
燃料供給装置形式 | 電子式〈電子制御燃料噴射装置(PGM-FI)〉 | |
点火装置形式 | フルトランジスタ式バッテリー点火 | |
燃料タンク容量(L) | 8.1 | |
主電池種類 | リチウムイオン電池 | |
変速機形式 | 無段変速式(Vマチック) | |
タイヤ | 前 | 110/70-14M/C 50P |
後 | 130/70-13M/C 63P | |
ブレーキ形式 | 前 | 油圧式ディスク |
後 | 油圧式ディスク | |
懸架方式 | 前 | テレスコピック式 |
後 | ユニットスイング式 | |
フレーム形式 | アンダーボーン | |
カラー | パールジャスミンホワイト | |
メーカー希望小売価格(消費税込み) | 448,800円 | |
(消費税抜本体価格 408,000円) |