髙橋裕紀、チャンピオン獲得取材会

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司会「みなさんお待たせしました。本日は今シーズン、全日本ロードレース選手権ST1000クラスでチャンピオンを獲得した日本郵便HondaDream TPの高橋裕紀選手と世界耐久選手権第3戦ル・マン24時間耐久で優勝したFCC TSRホンダ・フランスの藤井正和総監督の取材会にお越しいただき誠にありがとうございます。また、日頃よりホンダの広報活動にご理解ご協力を賜り重ねて御礼申し上げます。本日前半部分の進行をいたしますホンダ・モーターサイクル・ジャパンの根本です。どうぞよろしくお願いいたします。

それではまず出席者をご紹介いたします。MFJ全日本ロードレース選手権において今シーズンより新設されたST1000クラスにて新型のCBR1000RR-Rを駆り見事チャンピオンを獲得されました日本郵便ホンダドリームTPの髙橋裕紀選手です。続いて日本郵便ホンダドリームTPで監督を務めております手島雄介さんです。おふたりともよろしくお願いいたします」

髙橋裕紀選手「よろしくお願いします」

027

手島雄介監督「よろしくお願いします」

031

司会「まず始めに、髙橋裕紀選手、全日本選手権ロードレースST1000クラス初代チャンピオン獲得おめでとうございます。結果としましてST1000クラスではランキングのトップ3をCBR1000RR-Rを駆るホンダのライダーが独占しましたが、楽な戦いではなかったと思います。今の率直な感想をお聞かせください」

髙橋「そうですね、開幕2連勝することが出来て、全戦優勝を目指していたのですけど、ちょっと後半2戦いろんなことがあり、バタバタしてしまい、最終的に何とかチャンピオンを獲得できてホッとしています。ありがとうございます」

司会「この後、それぞれのレースについては詳しく伺っていきたいと思います。続きまして手島監督にお伺いします。ST1000クラスの初代チャンピオンを獲得したチーム監督として、今シーズンを振り返るといかがですか?」

手島「はい、率直な感想として、今髙橋が言ったように『ホッ』としているというのはあるんですが、コロナ禍で今シーズンがいつ開幕するかもわからない状況の中で、日本郵便さん始めホンダさん、いろいろなスポンサーさんが、ずーっと我慢して待っていただいた中で、ようやく夏に開幕して、最終戦でST1000の初代チャンピオンを獲得することが出来たというのは、いろんな意味で普通のシーズンとは大きく違う意味があるシーズンだったんだなぁと思っています。ありがとうございました」

司会「それでは髙橋さん、早速お話しを伺っていきたいと思います。今年は新型コロナウイルス感染症と台風の影響によって、全4戦での戦いとなりました。それぞれレースを振り返っていただきたいんですが、まず例年から大幅に遅れて8月のSUGOで開幕となりましたが、事前のテストを含めて新型となったニューマシンのセットアップやそのマシンに対する適応、そしてSUGOのレースでは見事ポールtoウィンを飾りましたが、その辺を振り返ってみていかがだったでしょうか?」

 2020年の全日本ロードレースの開幕は、4月4〜5日に鈴鹿サーキットで開幕する予定だったが、新型コロナウィルス感染症対策のため8月8〜9日のスポーツランドSUGOにずれ込んだ。

髙橋「ホンダが本気で作り替えた新型CBR1000RR-Rの初年度、テストが少ない中で、開幕に向けてみんながイコール・コンディションではあったんですけど、他のメーカーさんは今までのデータがある中で、ホンダはポテンシャルはあるけれども新しくてデータが無いという状況で、すごく不安な中スタートしたのと、僕個人的にはこれまで長らくお世話になったモリワキさんから心機一転、日本郵便HondaDreamというチームに移籍して、本当に全てが新しい中でのスタートでした。

開幕戦で雨の中、無事にポールポジションを取ることが出来て、あれは雨に助けられたところが大きかったんですけど、決勝レースが始まる頃には凄く気温が高くなっていて、多分すべてのライダーが、あの気温の中でレース周回数をワンメイクのダンロップタイヤで走るのは初めての中、うまく走り切ることが出来て、終わってみれば、転倒などが多い中、完走して優勝でき、開幕から取れたというところは大きかったですね 」

第1戦 スポーツランドSUGO 8/9-10

予選:1位  タイム:1’39.001  5ラップ目/16周中
 天候:雨 コース状況:ウェット

決勝:優勝 25ポイント獲得
天候:晴れ コース状況:ドライ 13ラップ 

司会「第2戦に予定されていた岡山のレースが台風で中止になってしまいます。当初、第3戦として予定されていたオートポリスが実質2戦目になったわけですけれど、このレースでも金曜日のフリー走行が霧で中止となるなど、ここでもマシンセッティングの機会が無くなってしまいました。しかし、オートポリスのレースでもポール to ウィン、開幕から2連勝を飾ることができました。結果を見ると、2位を、予選も決勝も引きな離しての圧勝のように見えましたが、それについていかがでしょうか?」

 9月5〜6日に予定されていた岡山国際サーキットでの第2戦は、「非常に強い」勢力の台風10号のため事前に中止が決定した。9月19〜20日に予定されていたオートポリスでの第3戦が2戦目となった。

髙橋「このオートポリスも、金曜日一日、霧で走行が無くなってしまったんですけど、うちのチームとして1週間前に事前テストに連れて行ってもらいまして、その時のデータであったり、開幕戦とか、その前の僕たちのチーム力であったり経験というところのアドバンテージがまだ開幕2連戦、2連勝というところに繋がっていました。

しかし、他のチームも走れば走るほどデータが増えてきてましたので、特にホンダ勢ですね、CBRのポテンシャルを、どのチームも引き出してきて、いよいよ混戦になっていくのかなって…。結果的には独走優勝みたいな形にはなりましたけども、レース序盤・中盤の2位争いが熾烈になったおかげで離せたというところがあったので、そういう意味では自分たちのチームも含めて、更にこのCBRのポテンシャルをもっともっと引き出していかなきゃいけないのかなと思った開幕2連戦でしたね」

司会「結果で見るほど簡単に勝てていたわけではないんですね」

髙橋「タイム差で見れば余裕かなって見られるかもしれないんですけど、内容的にはやっぱりほかの選手たちもどんどん力をつけて速くなって来てましたので、このままではいけないなという風には考えていました」

第3戦(2戦目) オートポリスサーキット 9/19-20

予選:1位 1’50.917  5ラップ目/14周中
天候:曇り/19°C コース状況:ドライ

決勝:優勝 25ポイント獲得
天候:晴れ/20°C コース状況:ドライ  14ラップ

司会「続いて10月中旬のもてぎのレースですが、一応条件が揃えばチャンピオン獲得という状況だったと思います。ウェット・コンディションの予選では、2番手につけたMuSASHi RT HARC-PROの名越 哲平選手に約2秒の差を付けて、またしてもポールポジションを獲得されました。ですが、決勝では、初めてその名越選手の後ろを、他のライダーの後ろを走ることになり、最終的に2位になり、チャンピオン獲得は最終戦持ち越しとなってしまいましたが、チャンピオン獲得といった意識、そういったものがあったのかどうか、それも含めて振り返っていただけますでしょうか」

実質2戦目終了時点での獲得ポイント合計は50ポイントでランキング1位。残りレースが2戦となったためツインリンクもてぎでの成績と、ランキング2位以下の選手の獲得ポイントによっては、最終戦を待たずにチャンピオン獲得の可能性もあった。

髙橋「正直もてぎで決まるとは…、チャンピオンことは全く考えて無かったですね。確かに可能性的に見たら高かったのかもしれないんですけど、もてぎは優勝をしっかり目指して戦った結果、レース内容的にも、名越哲平君がペースもすごく良くて、ついて行くのが本当にいっぱいいっぱいの中、最後意地でちょっと1回は仕掛けたんですけど、クロスをかけられてしまって、あの時点ではもうその日やれることは全部やった結果だったので、それをちゃんと受け入れるしかないのかなというところでしたね」

 第4戦(3戦目) ツインリンクもてぎ 10/17-18

予選:1位  2’02.337  9ラップ目/12周中
天候:雨 コース状況:ウェット

決勝:2位 23ポイント獲得
天候:晴れ コース状況:ドライ  14ラップ

2周目に入る時点でポールポジションの名越哲平がトップ、髙橋はその後ろにピッタリ付けて2位。最終ラップ、90度コーナーで勝負をかけ、名越のインに入り一瞬トップに出るも、クロスラインを取った名越に再度トップを奪われた。

司会「他のライダーもセッティングが煮詰まってきているとか、新しいマシンに慣れてきたことで接戦になってきたというところでしょうか?」

髙橋「そうですね。あと、雨のポールポジションは、僕たちが使っているオーリンズ製のサスペンションとウェット・コンディションのマッチングが良いというところもあったり、僕自身も雨得意ですので、そこらへんが結果につながったのかなぁと…。ただ逆に土曜日の雨によって、日曜日の路面コンディションの些細な違い、金曜日までのよかったフィーリングを上手く出しきれなかったので、そこはすごく、セットアップが最後詰め切れなかったという反省点は残っています。同じことを繰り返さないように気を付けなければと思いました」

司会「髙橋選手のライディングとCBRのマシンの特性で、合っている部分はどの辺でしょうか?」

髙橋「そうですね、ジオメトリー…、その車体の形というんですかね、一番今までと違うのはフロントのキャスターっていうか、サスペンションの角度ですかね。今までよりもすごく前に開いているというか、ブレーキングに強いバイクになっているというイメージがあります。僕もブレーキングを得意とするライダーですので、もてぎもそうでしたけれども、ブレーキングでは追いつくんですけれど、立ち上がりでうまく加速させられなくてという…、まあ良くも悪くも僕の走りとこのバイクは、非常に合ってまして、後はブレーキングからうまく旋回して加速…、リアタイヤのグリップを生かし切れれば、苦手なところが無くなっていきます。そこは今の課題です」

CBR1000RR-R SP

CBR1000RR SP

車名・形式

ホンダ・2BL-SC82

ホンダ・2BL-SC77

全長(mm)

2,100

2,065

全幅(mm)

745

720

全高(mm)

1,140

1,125

軸距(mm)

1,455

1,405

最低地上高(mm)

115

130

シート高(mm)

830

820

車両重量(kg)

201

195

キャスター(度)

24°00’

23°20’

トレール(mm)

102

96

司会「それでは最終戦ですけれども、最終戦は予選と決勝とに分けてお伺いします。まず予選ですが、今シーズンを見ていると比較的予選が始まってすぐベスト・タイムを刻む印象がありました。しかし、鈴鹿では、常にラスト・ラップにベスト・タイムを出していたように思います。これは作戦ですか?」

最終戦(4戦目) 鈴鹿サーキット 10/30-11/1

予選:3位 タイム:2’09.223   10ラップ目/10周中
天候:晴れ コース状況:ドライ 

髙橋「最終戦直前に自分の過ちで怪我をしてしまって、その影響がなかったとは言い切れないんですけども、本来ならタイヤ1セットしか使えないので、予選最初出て行って、まずアタックして、で、中盤でちょっと良かれと思うセットに変更して、まあ、さらにタイムが縮まれば御の字ですし、でもタイヤのおいしいところ使った後ですので、タイムが上げ切れないっていうのが一般的だと思うんですけど、その自分の怪我からなのか、うまく最初にタイムを出すことができずに(予選時間が経過して)行って、その後変えたセットが逆に上手くいって、怪我していたとはいえ、目の前に8秒台とポール・ポジションが見える状況でしたので、もう最後の最後まで走った結果は最終ラップにあのタイムを出せたんですけど、それでも3番手ということで、今年全戦でのポールポジション獲得できなくて、ちょっと悔しかったですね」

タイヤ規制:タイヤはMFJが指定した下記のワンメイクタイヤのみ使用することができる。

ST1000指定タイヤ:ダンロップ

用途

F/R

名称

コンパウンド

サイズ

ドライ フロント

KR149

M3

120/70R17

KR149

H3

120/70R17

リア

KR133

S1

200/60R17

KR133

M1

200/60R17

ウェット フロント

KR189

WA

120/70R17

リア

KR405

WA

190/60R17

・指定タイヤはドライタイヤが2スペック登録され、ライダーおよび該当チームは当該レースの開催時の状況で、どのスペックを使用するか(予選、決勝が異なったスペックのタイヤを使用することも可)選択できる。

・予選、決勝(朝のウォームアップラン除く)を通じてタイヤの使用本数が設けられ、2セット(前後タイヤ各2本)のみ使用することが認められ、タイヤにマーキング(ペイントまたはシール貼付)されたタイヤを使用しなければならない。
(MFJ全日本ロードレース選手権大会特別規則より抜粋)

司会「そのような中迎えた決勝レースですが、我々もまさかと思ったんですが、ジャンプ・スタートによるライド・スルーペナルティー。ペナルティーを消化して、その時の最後尾の30位から、(チャンピオン獲得のポイントを加算できる)20位以内を目指す戦いになったと思うんですが、最終的な結果は16位でゴールし、ST1000クラスの初代チャンピオンに輝きました。これまでに無いレース展開だったと思いますが振り返ってみていかがだったですか?」

race33

最終戦MFJGPで、ブラックアウト前に動いてしまい「ジャンプスタート」と判定されたスタートシーン。最前列3位からスタートした髙橋はスムーズなスタートには見えなかったが、1コーナー手前までには2位に上がっていた。

race38

予選2位の津田拓也(ゼッケン85)のアウト側にポジションを取った髙橋(ゼッケン23)は、2コーナーを抜けるまで津田のアウト側を走り続け、左コーナーとなる3コーナー入り口でかわしトップに立つなど、左手や肋骨を痛めながらも攻めの姿勢を取り続けていた。

スタートにおける反則

・ジャンプスタートの定義は、スタート合図が行われる前に(シグナルの場合は:レッドライトが点灯している間に)停止位置から車両が前進した場合とし、審査委員会の同意を得た上で競技監督の決定により、下記のいずれかの罰則が科せられる。
・ライドスルーペナルティ
・当該ライダーは、レース中、ピット走行レーンを通過するよう指示される。途中、停止することは認められない。通過後、当該ライダーはレースに復帰することができる。
・当該ライダーに「RIDE THROUGH」の文字の下に車両ナンバーを付した一体型ボードをコントロールラインで提示する。あわせて、他のポストで追加表示される。
・ライダーはピットレーンのスピード制限を遵守しなくてはならない(鈴鹿サーキットの場合は60km/h)。
(MFJロードレース競技規則より抜粋)

髙橋「(苦笑しながら)『本当にお騒がせしました』というところです。スタート、いつもクラッチ操作ギリギリにレバー位置を合わせていたのが、そもそもの間違いだったというのが、今は分かっているんですけど、怪我してる上にグローブも左手だけ大きいサイズをはめてたりとか、ギリギリ攻めていたので、握った状態でもちょっとクラッチが若干つながっていたような状況で、赤旗がいなくなって、レッドシグナルをずっと待たなければいけない状況で、クラッチが熱を持ってしまうとだんだんくっ着いて来ちゃうんですね。ちょっとずつ動き始めてしまったバイクを、リアブレーキで必死に抑えていたんですけど、それでも赤が点いたぐらいでジリジリ、ジリジリとバイクが動いてしまい、もうその時点で、『あっ、これはバレてるかな?』というのが頭にあったので、過去にもMotoGP(の例)でフライングして潔くすぐに入った方が、後半追い上げる時間があるというのが頭にあったので、『もう1周目からの、恐らくバックストレートエンドと、ゴールラインというか、スタートラインのところで『ゼッケン23』のペナルティーボードが出るだろう』と…、で、1周目戻ってきたところで、すごく見ていたんですけど、出てなかったので、『バレてないのかな?』と思ってたんですけど、2周目に差し掛かったバックストレートで「ゼッケン23」がチラッと見えて、で、そこん時にちょうど作本(輝介)君がアウトから抜きにかかってきたあたりでパッと見えたので、もうこの周に入らないと、もう1周損すると思って、で、直ぐ、ちょっとオーバーランしながらですけど安全確保して、消化することになったんです。そこからの追い上げが『(チャンピオンを獲得するには)恐らく20位まででよかったよな…?』っていう、自分に疑問を抱きながら『どこまで、誰まで追いかければいいんだろう』っていう、すごくどん底に落ちた気分でしたね」

race40

どこまで追いあげればよいか分からぬまま、前走者をひたすら追う髙橋。本人の胸中とは裏腹に、そのライディングは怖いほど研ぎ澄まされていた。

MFJGPはポイント獲得者全員に3ポイントが加算される。髙橋がチャンピオンになるための必要ポイントは20位の4ポイントだった。

 最終戦MFJGPの順位と獲得ポイント

順位

ポイント

1

28

2

25

3

23

4

21

5

19

6

18

7

17

8

16

9

15

10

14

11

13

12

12

13

11

14

10

15

9

16

8

17

7

18

6

19

5

20

4

司会「何位まで追い上げなきゃいけないっていうチームからの指示はなかったんですか?」

髙橋「(ライドスルーペナルティー後の)1周目のサインボードがですね『P15 +10何秒』みたいなことが書いてあって、全然意味が分からなくて、『ライドスルーしたのに15位なのかな…?』と思って、『あっ、もう追い上げなくてもいいのかな?』と思って…」

手島「ミスです。こちら(ピット側)のミスです」

髙橋「というか、チームメカニックもまさかの事態に結構テンパってたというか、ライダー含めて皆さんが…」

手島「はいそうですね、サインボードエリアに立っているスタッフたちも、正直その状況を把握するのにすごい時間がかかったのと、まあ高橋のレース人生もそうですし、我々のチームに来てからも、ビリからっていうのが経験ないので、『逆算して何秒で走ればいいんだ?』とか、その計算をするのにちょっと時間かかってしまったのがあったんですけど…、『ポジション15』って出した時は完全にテンパってましたね」

髙橋「(ライドスルーペナルティ消化後)2周目に見たときも『ポジション20って出てて、 まだ10何秒』みたいなぁ…、『あっ、15位ではないけど20位なのかな? 多分20位な訳ないな…』って思って、3周目に見たら29位って出てたけど、『あっこれが現実だ』と…。で、その時点でまだホームストレートとかに差し掛かっても誰ひとり前に見えない状態で、『本当にどこまで追いあげればいいんだろう』っていう、その一心でしたね。で、追い上げているうちに、やっぱり28、 27、 26位と、ひとつずつ上がっていって、20位になった時にまたちょっと僕は想像してたことがチームと違っていたんですけど、20位になった瞬間にもチームのサインボードエリアの雰囲気が変わらないんですね、(ピットからは)『まだまだ行けぇ』みたいな感じが出続けるので、『これは20位でもダメなのかな…』と思うんですけど…」

手島「いや違うんですよ、あの何ですかね、多分お互いテンパってる状態じゃないですか。できる限りもう大丈夫だよと、アクションをおこして、こういう感じ(両掌を下に向けて抑えていこうというゼスチャー)と、こう(右手で親指を立てて、チャンピオン獲得の順位以内にポジションアップした)と僕はやったんですけど、これが、多分こう(ペースを上げろと)見えたらしくて、こうは(ポジション)アップに見えたらしいんです。ちょっとその辺は、今後の課題としてしっかりと対応出来るようにしていきます」

(公式ラップチャートより)

Lap

髙橋順位

備考

1

3

2

15

ライドスルーペナルティーのためピットレーン走行中

3

30

4

27

5

23

6

21

7

20

チャンピオン獲得順位以内

8

19

9

18

10

16

11

16

ゴール

司会「チームとしても、その髙橋選手のペナルティというのは想定していなかったんですね」

手島「いやー、想定外でしたね。(髙橋選手の方を見ながら)本当にあの30ウン年の歴史、ライダー人生の中でも初めてでしたね」

髙橋「初めてです」

司会「最後尾がですか?」

髙橋「ジャンプスタートしたことが初めてでした。基本的にもう、その、ジャンプスタートというか、僕が思うに赤が消えた瞬間に動き出そうが、ちょっと一瞬経ってから動き出した方が、その後ミートで全然変わるので、そこでリスクを犯す必要は全くないんですね。ましてや僕のレースの1個前のST600で、トップの荒川晃大(こうた)選手がフライングしたのを見てたので、確実に黒くなってから進もうと決めてたのに、勝手に動いてしまったっていう、これはちょっと、自分としても今後、課題だなと思うんですけど…」

司会「いろいろなことが重なってそうなったんですね」

髙橋「はい、その中でも本当に無事にチャンピオン獲れたっていう、今年心機一転、新設されたカテゴリーでホンダのCBR1000RR-Rのデビューイヤーに、日本郵便さんの毎戦いろんな地方で応援してくださる方々とか、今までも応援してくれた方とか、すっごい応援がある中の最終戦で、まさかのそういうミスだったので、本当にもう獲れてホッとしてるとしか言いようがないですね。本当にありがとうございました」

race54

まさかの展開の中、消えかけたチャンピオン獲得をもう一度手繰り寄せるために鬼神の追走を続ける。

最終戦(4戦目) 鈴鹿サーキット 11/1

決勝:16位 8ポイント獲得
天候:晴れ コース状況:ドライ  11Lap

司会「それでは今度は手島監督に伺います。今シーズンから1000ccを走らせるのも初めてかと思いますし、マシンも新型となってデータが無い中、勝てるマシン作り、髙橋選手の要望に合わせたマシン作りをしてきたと思いますが、何か苦労された点とかありましたか?」

手島「ライダーとのコミュニケションを高め、出来る限りライダーの要望にあわせてマシンを作ることはチームの役割でもあり、600でも1000でも一緒なので、そこの苦労というのはあまりありませんでした。一番の課題は、今年いつ走れるかということと、走行マイルを稼ぐ機会が非常に少なかったということでした。髙橋君も先ほど言ってますけど、新設のクラスの、なおかつ新機種で、データを取る機会というのは、非常に重要になって来ます。我々としては、ライダーやチームから要望があった場合は走行マイルを稼ぐために出来る限り走行しに行き、データを取ることに重点を置いていました。また、そういったことが出来たのも、日本郵便さん始め応援してくださっているスポンサーさん達のおかげです。

九州大会の後、ホンダ熊本製作所を表敬訪問させていただきました。『今年、ホンダの威信をかけたCBR1000RR-Rがデビューします。ホンダは本気です』というのを、いろんなところでメディアさん通しても、僕らも知っていました。また、髙橋が、テストやったりとか、CBR1000RR-Rに関わっていたのは良く知っていました。

それだけに、どの部分が本気なのかみたいなことがちょっと興味あったのと、我々がレース出来ているのは、作り手がいるからだろうと言うことで、感謝も含めて表敬訪問させてもらって、実際ね、熊製に行って、本当にね、本気で作ってるんだなと…、その作り手のホンダマンひとりひとりからソウルを感じさせてもらって、本当にCBRブランディングと言うものを、我々のこのレースを通してお伝えできることっていうのは、前向きに強く前進して行きたいよね、というのは九州の後、向き合えたんだろうなと思ってます。

先ほどの質問に戻るとですね、苦労云々とかは特に何も感じていないんですが、最後に髙橋にはヒヤヒヤさせられたっていうか、今年の最大の残された宿題なのかなと思いますけども、はい(会場全体から笑)。

本当に多くのみなさまのバックアップのもと、スポーツ走行なり使わせてもらって走行マイル稼がせてもらったので、そういった部分で走行データが取れ、前半戦のギャップ作れたのもそのお陰で大きかったと思いますんで、本当にこの場を借りてありがとうございますとお伝えしたいです」

司会「ありがとうございます。ちょっと、髙橋さんにお伺いしたいんですけれども、前の型のCBRも乗られていたと思いますが、やっぱり新型に変わって、なんか大きくここが変わったというところをひとつ挙げるとすると、どこですか?」

髙橋「一番はやっぱ、皆さんも、もう一発でわかると思うんですけどトップ・スピードですね。直線のとにかく速いホンダが戻ってきたというイメージです。特にこのST車両ですと各メーカーのそれぞれの本当のバイクの持っている素のポテンシャルが引き出されるカテゴリーだと思いますので、そこでストレートが速いのは、レースする上でものすごく強い武器になります。他社のバイク追い抜くのは容易ではないんですけど、リスクを負わずに抜けるっていうのことはすごく大切なことです。鈴鹿のレースでもそれを感じました。

後はご覧の通り、あちこちになされたエアマネジメントです。ウィングも付いてますし、ウィングがついてることによってフロントの接地感であったり、旋回性、またバイクの軽さというところが出ています。ただ、まだまだポテンシャルの全てを出し切れてるとは思っていません。

全体的な総合力でも今までのCBRよりものすごく上がっているんですけど、遥かに上回っているものはエンジンパワーです」

司会「ありがとうございます。来シーズンももしCBR1000に乗るのことになり、もう少し煮詰まれば、さらに速さを見せられそうですね」

髙橋「そうですね。あとは、あの今年終わってみてランキングTOP 3がCBRでしたので、来年以降も恐らく勝負はホンダ勢に絞られてくるのかな…と、そこにもちろんほかのメーカーさんも負けじと力を出してくると思いますし、結構見てても面白いカテゴリーになっていくのではないかなと思います」

 2020年ST1000クラスライダーポイントランキング

順位

ライダー

チーム

マシン

獲得ポイント

1

髙橋裕紀

日本郵便HondaDream TP

CBR1000RR-R

80

2

名越哲平

MuSASHi RT HARC-PRO

CBR1000RR-R

75

3

作本輝介

Keihin Honda Dream SI Racing

CBR1000RR-R

61

司会「はい、ありがとうございました。それでは最後においでいただいた皆様へメッセージを、まず髙橋さんからお願いいたします」

髙橋「レース界だけではなく、コロナ禍で全ての方々の普段の生活全てが一変してしまった年の中で、無事に開幕することができて、その中で僕たちが本当にレースできることの感謝であったり、待ってくれていたファンの方々であったり、関係者の皆様、本当にこうレースって素晴らしいんだなっていうのを再実感しました。それとともに、そういう年に新型CBR1000RR-Rのデビューイヤー、プラス新設されたST1000の初代チャンピオンに輝くことができて、この機会というのはなかなかないことですので、獲れたことに感謝していますし、本当にありがとうございましたとお伝えしたいですね」

司会「それでは、手島さんからもチームを代表して、応援いただいた皆様にご挨拶をいただければと思います」

手島「応援していただいた方々に、本当に感謝申し上げます。高橋のコメントと重複するかもしれないんですが、今年のコロナ禍で、どういう状況になるか分からない中で、メインスポンサーである日本郵便さん始め多くのスポンサーさんが、我々のそばに寄り添って(開幕を)待ってくれました。そういった中で、レースが出来るタイミングなった際には、サーキットの判断だったり、オフィシャルの方たちの勇気ある行動だったり、制限がある中にもかかわらずサーキットに足を運んでいただいたファンの方たち、もちろんチームですからライダー含めてそうですけど、サーキットに集まっているひとりひとりの行動が、初めてエンターテイメントをひとつにしてるんだなというのを感じました。そして、そういった人達と共にモータースポーツを通して社会に貢献できる活動をして行きたいと強く思った次第でした。

race25

サポーター、ファン、そしてスポンサーと、チームは仲間を大切にし続けた。監督はじめライダーも、いつも感謝を忘れない。その姿はスタート直前にも…。

我々はモータースポーツに携わっている中で、どこに(社会的)役割があるのかということを考えています。これは、高橋、小山ともよく話し合います。有難いことに我々は今、日本郵便さんと一緒にモータースポーツを通して社会に発信する役割をいただいているので、これからも、もちろんその結果が良ければいいことですし、結果が出た際にはそれが後押しになるようなプロジェクトを徹底して進めていきたいと思っています。

まだ始まったばかり、高橋ともまだ1年ですから、これから我々の活動に注目していただき、出来るならばひとつのチームの一員となって頂けたらなぁと思っていますので、今後ともよろしくお願いします。ありがとうございました」

race65

司会「ありがとうございました。それではこれより質疑応答の時間を設けたいと思いま。ご質問があります方は挙手の上、御社名とお名前を頂けると幸いでございます」

「『オートバイ』の中村です。髙橋選手、チャンピオン獲得おめでとうございます。今エンジンパワーが大きくなったとおっしゃっていましたけど、エンジンパワーが大きくなった分、こういう大きいオートバイでの市販車ベースの車体のセットというのは結構難しくなると思うんですが、それはSTという新しいカテゴリーで、これを詰めるに、例えばスーパーバイクより簡単だったのか、選択肢ですね、もしくはSTという新しいクラスの今後の展望とも含めて、STというレギュレーションをちょっと教えていただきたいんですけど」

髙橋「そうですね、やっぱり改造範囲が少ないので、今までよりも僕は難しく感じています。セットアップだけで解決することもあれば、例えばリンク比であったり、変えてはいけないもので解決するのが分かっているのに、それを、補うためにどういうセッティングをしなきゃいけないのか、レギュレーションの範囲でなんとかしなきゃいけないので、痒いところに手が届かないからどうやってかこうみたいな、そんなイメージですね。

変えられないところは、それを補ったらまた別のところに悪いところが出てきて、それでは、トータルでどうしたらいいのかが悩みどころです。今までのセオリーが通じないところが、結果的に今年1年、4戦を戦った上で未だに腑に落ちないところが僕の中でもあります。

それがSTクラスならではの、新たな僕の経験になっています。だからこそ、みんながイコールコンディション、タイヤも同じですし、その歯がゆい気持ちを多分みんながしていると思いますので、そこでライダー力、チーム力、その総合力ですよね、チームとしての総合力が問われる、楽しいカテゴリーになっていくと思います」

「『ライディングスポーツ』の青木です。監督は、日本郵便のスポンサーで活動しています。例えば九州の時に、(私の)九州のレース仲間が、郵便局長なんですけど、もう事前からうるさくて、『行きます、行きます、応援しにいきます』と、私にも連絡が来るほどなんですけど…」(会場・笑)

手島「九州の方、熱いですからね」(会場・笑)

青木「全国の郵便局の方々が、 かなり応援に来てくださったり、モータースポーツでこの種のスポンサーは珍しいと思うんですけど、それを背負ってのレース活動は、いかがですか?」

手島「先ほどもお話しさせてもらったんですけど、多分ここにいる皆さんが色々感じていると思うんですけど、モータースポーツは続けたり、やっていくことは非常に難しいことがいっぱいあるじゃないですか。そういった中で、モータースポーツだけじゃないですね、スポーツはやはり結果をどう使っていくかとか、結果の価値を見出していくのが難しくて…。

039

さっきもお弁当食べながら髙橋と話したんですけど、一瞬なんですよね、その一瞬の結果を世の中の人たちにどう伝えて、長くその価値を伝えていくかということが、必要だよねっていう声は、我々の会社だったり、僕の夢でもあるんですけど、モータースポーツを国技化するという夢があるんですけど、まあそういった部分で考えていくと、本当に日本郵便さんって全国にいらっしゃいますから、で、その日本郵便さんと一緒に、日本のインフラの基になった会社ですから、そういったことを考えると、本当に役割をいただいているということに、すごく感謝が生まれる活動なんだと思っています。本当に変えられるチャンスがあるんではないかとか、生み出せるチャンスがあるんではないかとか、と言うことを本当に希望として持てる、一緒に希望を見ることができるパートナーさんだと本当に思っています」

司会「ほか、ご質問よろしいでしょうか? では質疑応答を終わらせていただきます。続きましてフォトセッションに移らせて頂きます。準備しますので暫くお待ちください」

後半に続く

race72

最終戦終了後、鈴鹿サーキットピット前で、手島監督を中央に今年参戦したST1000と600クラスのライダー、スタッフでチーム記念撮影。混乱のサインボードにも、最後には納得の数字が表示された。

写真/原富治雄 まとめ/古谷重治

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