雨の日は、サービスマニュアルとパーツカタログで遊ぶ

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一般のライダーにはあまり馴染みのないサービスマニュアルとパーツカタログ。ひも解いてみるとオートバイの世界がまた広がって来た。

関東地方は昼前から雨降りの予報が出ている。ツーリングの季節が到来し、もっともっとバイクに乗ろうと思っている矢先に毎年水を差すのが梅雨だ。今年もまたやってきた。そういえば、このサイト主催者のモリさんに頼んでおいたサービスマニュアルとパーツリストが届いていたことを思い出した。出かけるのはあきらめて、今日は家で調べものを済ませよう。

何でそんなお願いをしたかといえば、ホンダCRF450Lのカタログの裏表紙に赤ベタ白抜きで印刷された「!ご注意」に興味が沸いたからだ。そこには、「性能を維持し、長くご愛用いただくためには、Honda指定のスケジュールに沿ったメンテナンスと部品交換が必要となります。」と記され、主要パーツの交換時期が指定されていた。

レースをするためのモトクロッサーは耐久性よりも性能が優先される。性能を求めるため耐久性が犠牲にされていると言っていい。各パーツの点検時期と寿命が細かく定められている。ユーザーもこれに納得して購入し、常に点検・交換をしていくことになる。しかし、一般道を走る市販車は、実際のところ壊れてから直すという使い方が一般的だ。だから、購入をいざなう商品カタログにまで、どちらかと言えば購入希望者に煩わしいと思わせる事項が書かれていることはまずない。「めざしたのは、コンペティションマシンCRF450Rを可能な限り変えないこと。」をコンセプトに生み出したCRF450L、カタログからしてユーザーに覚悟を強いている。

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ホンダCRF450Lのカタログ背表紙には、「!ご注意」として、パーツの交換時期が記されている。購入前に覚悟が求められている。

よく読むと、点検と交換には6つの時期が定められていた。

1)6ヶ月毎に点検、3年ごとに交換

2)1,000km毎、または4ヵ月毎に交換

3)3,000km毎、または4ヵ月毎に交換

4)3年毎に交換

5)30,000km毎に点検

6)30,000km毎に交換

「!ご注意」の文字に驚かされはしたが、良く読んでみるとレーサーとは違い、走る度に点検、交換するわけでもないことに気が付いた。ただし、6)の30,000km毎に交換の中には、エンジンの中核を成すクランクシャフトが入っている。エンジンをフレームから降ろし、クランクケースを分解する作業が伴う。CRF450Lは単気筒のためエンジンの部品点数が少ないのが救いだが、それでも短時間で簡単にできるものではないだろう…などと思いを巡らす。

ところでCRF450Lを購入したとして、毎年何km乗るだろうか? 乗る距離によって、交換時期は大きく変わってくる。これまでの自分のオフロード車の走行距離から勘案すると、多く見積もっても3,000km/1年という数字がはじき出された。となると、30,000kmに到達するのは最低でも10年先の話になる。僕にとっては「交換は必要ありません」と言われているのと同義語かもしれない。

それでも、3万km走破したら、指定されている部品はきちんと交換したい。その際に工賃は別として、パーツ代がいくらかかるのか事前に知っておくのも悪くないだろう。

まずは、2)の1,000km毎、または4ヵ月毎に交換する部品から。これは、エンジンオイルとオイルクリーナーだ。エンジンオイルはホンダ純正ウルトラオイル(4ストローク用)が指定されている。1ℓ/¥1,150円(希望小売価格、税抜、以下金額表示は同様)。これは、商品カタログに掲載されている。

オイルクリーナー調べから、パーツカタログの出番となる。

パーツカタログの内容は専門的であるものの、初めて使うひとにも検索しやすいように「使用にあたって」、「部品情報の探し方」、「部品に変更があったとき」などと、巻頭に丁寧な解説ページが設けられている。違和感があるとすれば、部品名が半角カタカナで表示され、音引きが省略されたり促音がないことだ。カムチェーンは「カムチエン」、ワッシャーは「ワツシヤー」となる。オートバイを深く知るためには受け入れるしかない業界表現だ。

パーツカタログには、使用されているすべてのパーツがイラスト付きで掲載されている。多数の点数があるにもかかわらず、上手に整理されていて調べやすい。写真は、ピストン、リング、ピン、コンロッド、クランク、シャフトのページ。イラストに合番がふられ、同じページ内にその部品の価格や使用個数が掲載されている。

目指すオイルクリーナーは、しかし「オイルクリーナー」という表現では、パーツカタログに見当たらない。「オイルクリーナー」に当たるものの見当をつけながら、ぺージをめくるうちに36ページの「エンジングループ E-10  L.クランクケースカバー」に掲載されたオイルフィルターを見つけた。見出し番号は「8」、部品番号「15412-MEN-671」、部品名「フイルターCOMP.,エンジンオイル」、希望小売価格「790」、使用個数「1」となっている。

今度はサービスマニュアルの出番となる。オイルフィルター交換時の注意ポイントを確認しておきたい。潤滑装置の点検、調整は「3-19」に掲載されている。さらに「8.潤滑装置」のページで、CRF450Lにはオイルクリーナの役目をするものとして、エンジン左側下方にメッシュのオイルフィルタースクリーンが使われていることが判った。こちらは「洗浄、乾燥、必要に応じて交換」となっている。それでは、もう一度パーツカタログに戻って部品番号を調べよう…、などとパーツカタログとサービスマニュアルの間を行き来して、商品カタログに出ていた交換部品の品名、番号、価格、数量を抜き出した。

品名 部品番号 価格(税抜) 数量
1 6ヶ月毎に点検、3年ごとに交換
エアクリーナーエレメント
エレメント,エアークリーナー 17213-MKE-A50 ¥4,590 1
2 1,000km毎、または4ヶ月毎に交換
エンジンオイル
ウルトラG1 ¥1,242 1ℓ
オイル交換時 1.1ℓ
オイル、フィルタ交換時 1.15ℓ
分解時 1.45ℓ
オイルクリーナー
フイルタCOMP.,エンジンオイル 15412-MEN-671 ¥790 1
Oリング 39.8×2.2(アライ) 91302-PA9-003 ¥160 1
3 3,000km毎、または1年毎に交換
フューエルフィルター
フイルターキツト,フユーエル 06160-MKE-A00 ¥5,550 1
4 3年毎に交換
冷却水
Hondaウルトララジエータ液
冷却液標準濃度50%
交換時 1.14ℓ
分解時 1.24ℓ
リザーブタンク 0.15ℓ
5 30,000km毎に点検
トランスミッション
6 30,000km毎に交換
吸気バルブ
バルブ,インレツト 14711-MEN-A01 ¥5,800 2
排気バルブ
バルブ,エキゾースト 14721-MEN-A70 ¥3,380 2
ピストン
ピストン 13101-MKE-A50 ¥9,400 1
ピストンピン
ピン,ピストン 13111-MEN-730 ¥1,490 1
ピストンリング
リングセツト,ピストン 13011-MKE-A50 ¥3,910 1
クランクシャフト
クランクシヤフトCOMP. 13000-MKE-A50 ¥38,100 1
クランクシャフトベアリング
ベアリング,ラジアルボール 30X72X19 91001-MKE-A71 ¥2,580 1
ベアリング,スペシヤルローラ(NTN) 91002-MEY-671 ¥3,270 1
カムチェーンテンショナー
テンシヨナーCOMP.,カムチエン 14510-MKE-A51 ¥3,500 1
ガイド,カムチエン 14620-MKE-A50 ¥2,030 1
点火プラグ(イリジウム)
プラグ,スパーク(SILMAR10A9S)(NGK) 31909-MEN-A31 ¥2,310 1

表が完成すると窓の外はすっかり暗くなっていた。そうか、30,000km毎に交換のエンジンパーツ代は合計しても10万円に満たないのか…。雨はまだ降り続いている。

パーツカタログをめくっていると懐かしいメカニックに出会った。『まだ、ここで働いている…』。おじさんは、ドライバー、スパナ、ペンチを前にどう修理すればいいか考えを巡らしている。そして、パーツカタログの読み方も教えてくれる。昭和を感じさせるほのぼのとしたイラスト。僕が初めてパーツリストを手にした40年以上前からここにいたような気がする。

ところで、このメカニック、襟足から跳ね上がった髪の毛に特徴がある。一般的なメカニックのイラストを書くときに、ここまで描くだろうか? ホンダが長きに渡り使い続けていること、そしてこの特徴。僕は、創設期の重要なメンバーがモデルになっているような気がしてならない。

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TVのリモコンスイッチを押すと、天気予報が週末は梅雨の合間に陽が差すことを告げていた。

フルヤ シゲハル

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