「CB」誕生60周年記念イベントでタイムスリップ

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展示されていたCB750は砂型クランクケースの初期型だった。今でも堂々としているが、1968年のあの日、CB750はことさら大きく見えた。

「『CBと駆け抜けた時代』の特別展示をやってるよ」というモリさんの誘いで、Hondaウエルカムプラザ青山で待合わせすることになった。モリさんは、このサイト、TRACTIONSを主宰している。ホンダ本社1Fのウエルカムプラザは、新製品や販売中のクルマとバイクが並べられているが、この日は歴代のCBが勢ぞろいし、会場の雰囲気が一変していた。

「少し遅れます」というLINEに、「ゆっくり来てください」と返してから、腰を落ち着けて時代背景のパネルを丁寧に読んでいく。『学生運動』『サザエさんアニメ放送開始』『西名阪自動車道全線開通』『五百円硬貨』、そして目の前のCB750…。今にして思えば、1969年のパネルの前に来たときにはすでにタイムスリップが始まっていたような気がする。

あれは、僕が中学2年生の時だった。無類のバイク好きだったクラスメートの後藤くんに誘われて、晴海の東京モーターショーにやって来た。そこに展示されていた巨大なバイク。エンジンもでかければ、4本のエキゾーストパイプの太さにも圧倒された。『こんな大きいバイクに誰が跨るのだろうか?』とこころの中でつぶやいた。

次にCB750を見たのは、家の近所でだった。通学路の坂を上っていくと向かいから一台のバイクが勢いよく下りてきて、道路の真ん中に大木が生えていたパン屋の前を、左右左と軽快に切り返し、走り去っていったのだ。それが、発売されたばかりのCB750だった。スピード、エンジン音、ブレーキの鋭さ、そしてそれに乗っているライダーの見事な操縦。15歳の僕は、一瞬で心を奪われてしまった。そのCB750とは毎日のようにすれ違った。よく観察すると、ハンドルが一文字に付け替えられていた。そのライダーは、燃料タンクを抱え込むように前傾姿勢を保ちながら、アクセルワークだけで切り返しを行っているように見えた。ひと際大きいエキゾーストノートを響かせながら。

1960年代、ホンダは念願のGP制覇を何度も達成した。ホンダの技術力が日本人の誇りだった。そして高回転高出力エンジンがホンダの代名詞になった。市販車がシングル、ツインの時代に、GPマシンは4気筒、6気筒と多気筒化し、「時計のように精巧なエンジン」と評されるメカニズムで燃焼を制御していた。誰もが一度は夢見た多気筒エンジンのGPマシンライディング、その夢をかなえてくれたのがCB750だった。CB750は世界GP成功のストーリーと密接に結びついている。

坂の上からCB750のライダーが一直線に下りてきた。一度アップハンドルに戻したこともあったが、今日は初めて出会ったあの日のようにまた一文字ハンドルに付け変わっていた。リズミカルなアクセルワークで減速し、大きくマシンを寝かせて切り返し、各ギアで高回転まで引っ張りながら加速していく。今にして思えば、あのナナハンライダーは、通勤経路にわざわざパン屋シケインのある道を選んでいたのだろう。あの時、彼はまさしくホンダGPレーサーに跨ってマン島を走っていたに違いない。

その後、僕が高校に進学して通学時間帯が変わったため見かけることはなくなった。ただし、僕の楽しみが無くなったわけではない。自動二輪車運転免許証が取得できる16歳の誕生日はもうすぐだった。

「ゴメン、ゴメン」、モリさんが会場にたどり着いた。モリさんは僕と同じ1954年(昭和29年)生まれなだけに話が合う。それも目の前に大好きなバイクがあるからたまらない。ほどなくして場所を会場からすぐ近くのおそば屋さんに移し、恵比寿の瓶ビールでCB誕生60周年に乾杯した。CB談義はますます盛り上がり、今度はワインバーに移動、それでも話は尽きることを知らない。展示見学1時間、CB談義6時間が瞬く間に過ぎていく。酔いも手伝っているのかタイムスリップから覚めることなく…。

フルヤ シゲハル

「CB」誕生60周年記念イベント
2019年6月4日(火)~6月24日(月) 10:00-18:00
Honda ウエルカムプラザ青山

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