「速いだけでなく、安全面の装備充実で乗りやすい」(髙橋裕紀)ホンダCBR1000RR-R、サーキット全開走行インプレッション

レーシングライダー、髙橋裕紀がツインリンクもてぎのロードコースでCBR1000RR-Rを全開走行させた。甲高いエキゾーストノートを轟かせながら、強烈な加速で視界から遠ざかっていく。周回を重ねるごとに路面にブラックマークが増える。もはやCBR1000RR-Rについていくバイクはいない。孤高のラップを重ねる髙橋は、その時何を感じていたのだろうか?

バックミラーやナンバープレートが付いていることを忘れさせるほどサーキットにフィットしているCBR1000RR-R FIREBLADE SP。エキゾーストパイプの変色が高回転走行を物語っています。試乗の車両は国内仕様車で、アクセサリー未装着車。公道走行に必要なすべての部品をつけたままにしています。レーシングコース走行中は飛散防止のためバックミラーに白の布テープを貼っています。また、マーシャルからの認識用にカウル前面とリアカウル上面にゼッケンナンバーを追加しています。

レーシングライダー、髙橋裕紀が
ツインリンクもてぎのロードコースで
CBR1000RR-R FIREBLADE(ファイアブレード) SPを全開走行させた。
甲高いエキゾーストノートを轟かせながら、強烈な加速で視界から遠ざかっていく。
周回を重ねるごとに増える路面のブラックマーク。
もはやCBR1000RR-Rについていくバイクはいない。
孤高のラップを重ねる髙橋は、その時何を感じていたのだろうか?

日時:2020年6月30日(火)
場所:ツインリンクもてぎ
走行枠:スポーツ走行
時間:10:00-10:30、12:15-12:45
天候:曇り→雨(走行中、ポストよりレッドクロス*の振動提示あり)
Rider:高橋裕紀
Photos :原 富治雄

髙橋裕紀(たかはし ゆうき)35歳

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2004年 全日本ロードレースGP250クラス チャンピオン
2006年 ロードレース世界選手権250ccクラス
第5戦 フランスGP優勝
第10戦 ドイツGP優勝
2009年 MotoGPクラス出場
2010年 Moto2クラス
第7戦 カタルニアGP優勝
2014年 全日本ロードレース選手権J-GP2クラス チャンピオン
2015年 全日本ロードレース選手権J-GP2クラス チャンピオン
2015年 アジアロードレース選手権スーパースポーツ600ccシリーズチャンピオン

 

CBR1000RR-R FIREBLADE SPのサーキット・ファーストインプレッションをお聞かせ下さい。

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ビクトリーコーナーからメインストレートに立ち上がるCBR1000RR-R。コースインして数周しか走っていないにもかかわらずで深いバンク角を保ちながら気持ちよく旋回しているように見えました。

「バックミラーもナンバープレートもついている公道用市販車、タイヤもピレリ製の溝付き。ところが音も含めて市販車に乗っているという感覚はありませんでした。去年まで乗っていたJSBのベース車のような感覚で乗っていました。タイヤ・ウォーマーもかかっていなかったですし、最初は走りながら『大丈夫かな、ヒザつけるのかな』という不安がありましたが、それも2周目で無くなっていました。完全にレースバイクに乗っているっていうイメージになっていました。すごく乗りやすいですし、乗りやすいけど速いっていう感じがしました」

乗り初めの違和感はありませんでしたか?

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周回を重ねるごとに増えていくブラックマーク。コーナーの立ち上がりではドリフト状態が続きます。バイクをいち早く起こし、脱出ラインはアクセル開度とライディングフォームで決めているかのようでした。

「違和感はほんとにないですね。僕は手があまり大きくないのでブレーキレバーの位置を調節したくらいで、レースバイクに乗っているという感覚に陥りました。今日は走行台数も少なかったので、僕が走る周回数分だけコースの立ち上がりにブラックマークが増えていく。『あっ、さっきの周回は外へ膨らみすぎたかな』とか、そのくらい(初めて乗る公道用市販車だということを忘れて、サーキット走行を)楽しめました」

動力性能はいかがでしたか?

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マフラーはAKRAPOVIČ(アクラポヴィッチ)社と共同開発のチタン製。バタフライバルブを内蔵し、追加されたバルブストッパーでさらに騒音を減らしています。高回転になるとバルブが解放され音質が豹変(ひょうへん)します。

「素晴らしいですね。ピットロードでは、マフラー内臓の排気バルブが閉まっているので一般のバイクと同じように静かですけど、6,000rpm、一速ギアで70km/hを超えると一気にバルブが開いてレースバイクと同じような排気音になります。気分も高揚します」

髙橋さんが試乗中、いくつかのコーナーで撮影したのですが、加速していく速度がレースバイクそのものでした。

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フルカラー液晶メーターに大きく表示された回転計(別のインターフェースを選択することも可能です)。パステルカラーチックなレッドゾーンは14,500rpmから始まっています。

「6,000rpmからかなりパワーが出ていますが、さらに12,000 rpmからレッドゾーンに入る14,500 rpmまで…、今日はシフトアップをだいたい15,000 rpmでしましたが、12,000 rpmを超えてから15,000 rpmまでのトルク感が素晴らしいですね。みなさんもアクセル全開で12,000 rpm から15,000 rpmまで回したらかなり痺れると思います。その手前の回転域でも十分パワーはあるんですよ、そこからさらに来るのでビックリします」

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水冷4ストロークDOHC4バルブ直列4気筒999ccエンジンは、218PS/14,500rpmの最高出力を発揮、最大トルクは11.5kgf・m/12,500rpmです。

あまりにも早く加速するのでバイクがすぐに小さくなっていきました。

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SP車に装着されているクイックシフター付きチェンジペダル。当日のリンクは1ダウン5アップの正チェンジセットでした。まさかこれが、思いもよらぬことを起こすとは…。

「公道用車両のため正チェンジ**なので尚更ですけど、(シフトアップのためチェンジペダルをかき上げる度に)身体が置いていかれそうなぐらい(加速が)凄い。乗っていてそれが楽しさに繋がります」

2〜3周目にはコーナー立ち上がりで加速する際にフロントタイヤが少し浮き上がり始めました。

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強力な動力性能のため加速中にリアタイアがホイールスピンしてドリフト状態になっています。このためカウンターステアをあててバランスを保っています。この状態になっても乗っていて怖くないそうです。「安全に速く走れる」。これこそがCBR1000RR-Rの真のコンセプトのようです。

「不安が楽しさに変わって、取材で乗せていただいているにもかかわらず自分が楽しんでしまっているような、『どこまで速く走らせられるのだろう?』という感じになっていました。また、ウイングが付くなど、バイクの構造的にもフロントタイヤのすごい接地感を感じます。ブラックマークが残っているということはホイールスピンしているわけですが、立ち上がりでアクセルを開けていても接地感があってフロントを回り込んでいくような旋回性も出ているので怖くないんです。接地感を感じていないと『いつ飛ばされてしまうのかな』という怖い気持ちが出てくるんですけど、接地感があるので安心できて、加速感がすごくありますので、危なくない範囲で乗っていて楽しいというのを一番感じます」

制作のコンセプトをみるとCBR1000RR-Rはコーナリングにも拘っています。走行中はコーナーを気持ちよく抜けているように見えました。

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効果的なダウンフォースを得るために左右のダクト内側に3枚ずつ配置されたウイングレット。ヘッドライトの間に設けられたラムエアダクト。走行風を利用したり、貼り付きを防いだりするための空力造形がなされています。

「今回僕も技術者さんとお話する機会があったんですけど、エアロダイナミックが効いています。ウイングもそのひとつですが、左右ヘッドライトの中央にラムエアダクトがあり、ダクト入り口に設けられた形状でバイクを切り返す時の横の風を逃がしています。これらの効果で先ほども言いましたけどフロントの接地感はあるんですけどバイクは軽いんです。軽いバイクって言うと接地感なさそうなイメージなんですけど、切り返しも『スッ、スッ』と軽く動くにもかかわらず、ちゃんとタイヤの接地感があります。このためコーナリングがしやすくなっています」

今回試乗したCBR1000RR-Rはエマージェンシーストップシグナルが装備されています。50km/h以上での走行時、急ブレーキ操作を行っているとシステムが判断した場合にハザードランプを高速点滅させ、急ブレーキをいち早く後続車に伝えます。フロントのウインカーも点滅するので、コーナーで撮影していると髙橋さんがどこからブレーキングを開始し、どこで終了しているのかがわかりました。寝かしこみながらもクリッピングポイントに向けハードブレーキングを続けていました。

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V字コーナーへのアプローチ。バイクは寝始めていますがフルブレーキングは続いています。このため重心が前寄りになりノーズがダイブしているのがわかります。ここで威力を発揮しているのがSPに装着された電子制御フロントフォーク。状況を感知しライダーに不安を抱かせません。エマージェンシーストップシグナルを採用しているためフロントウィンカーも高速点滅。レーシングライダーは、いかにコーナー深くまで急ブレーキをかけて突っ込んでくるのかを見せてくれました。

「僕はまだ扱い切れてはいなかったんですけど、電子制御フロントフォークが装着されていました。直線で『パン』とブレーキをかけたところ、僕もハザードランプの点滅が見えまして、『このくらいのブレーキングでもう点滅するんだ』ということを知りました。あとABSも僕が感じない程度に介入しているんだろうと思っていました。倒し込んでいって途中からはコーナーの先に目線が行くため、どの地点まで点滅してたのかは分からないのですが、あれでかなり安全マージンを取って走っていました。そして何も怖くないと言うか、バイクに制御してもらっている感というのがありました。逆にどこまで行けちゃうんだろうという気がします。走行も最後の方になると少しずつバイクのことも解ってきて、ブレーキをより『ぎゅ』っと掛けると、電子サスペンションが反応してくれることが分かりました。怖がってゆっくりかけるとサスは柔らかい動きをして、そのイメージだと『ぎゅ』っと掛けたら『スコン』とフロントフォークが入ってしまいそうですが、強くかけてもちゃんと応えてくれるので、この反応の違いをマスターしたら結構レースでも使えるんじゃないかというくらい面白かったです」

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SPのフロントブレーキはBrembo(ブレンボ)の大径ディスクを採用。ÖHLINS(オーリンズ)サスとの組み合わせで、状況変化に応じた安定した制動と姿勢維持を生み出しています。さらに、公道とサーキットの2モードに切り替え可能なABSが、安全・安定ブレーキングに寄与します。

今日乗っていただいたCBR1000RR-Rは公道用市販車なので、スピードメーターも装備していました。走行中、スピードメーターを確認することはありましたか?

「ありました。ツインリンクもてぎのダウンヒルストレートを下って、絶対転倒は出来ないのでマージンを取ってブレーキングしたつもりですが、ブレーキングする直前のスピード表示が293km/hだったことを目視しました。速いですよね、やっぱり。僕もビックリしました」

CBR1000RR-Rを購入された方にどのように楽しんでもらったらいいか、アドバイスをお願いします。

「そうですね、今日、僕がさせてもらったようにフルパワーを出せる場所はサーキットしかないと思います。そういう方はサーキット走行をお勧めします。逆に6,000rpmから音が変わるというのは一般公道でも体感できると思うので、そこら辺の音の変化だったり、電子サスペンションだったり、トラクションコントロールなど、ただ速く走れるだけではなくて、安全面の装備も充実して走りやすく乗りやすいですので、それをゆったりと味わってもらえるといいですね。ただし、ライディングポジションは従来のCBRよりもよりレースバイクの様に前傾姿勢になっています。もし機会があれば、一般公道でCBR1000RR-Rに乗ってみたいですね。このバイクで一般公道を走ったらどう感じるか、僕としても楽しみです」

最後に髙橋さんのレース活動をお聞きします。今後の予定を教えてください。

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「“日本郵便ホンダドリーム”チームから、新設されたST1000***クラスにこの新型ホンダCBR1000RR-Rで参戦します。今年は新型コロナウイルス感染拡大防止のためレースは延期や中止が相次ぎましたが、2020年全日本ロードレース開幕戦が8月9日(日)-10日(月・祝日)にスポーツランドSUGO(宮城)で行われることが決まりました。ちょうどお盆ですね。そこに照準を合わせています。チームとしては最初の活動も始まっていませんが、これはどこのチームも同じだと思います。限られた短い時間の中で、いい走りができるように準備します。ベース車両のポテンシャルが高いのでST1000クラス参戦にはもってこいだと思います。バイク、ライダー、チーム共に初代チャンピオンになれるように頑張ります」

【お知らせ】この走行を動画編集した映像が公開されています。強烈な加速や華麗なコーナリング、そしてエキゾーストノートを視聴することができます。こちらもぜひご覧ください。

URL : https://youtu.be/pLW4yY7JC8U

[注釈]

*レッドクロス : 赤い斜め十字の入った白旗。コース上のこの付近において、雨が降り始めたことを示す。
**正チェンジ : 1速のみ踏み込み、増速時はチェンジペダルをかき上げるワンダウン・ファイブアップ式のこと。ほとんどのロードレーサーは、左コーナーでの増速時に爪先がシフトペダルの下に入らないことを嫌いワンアップ・ファイブダウン式の逆チェンジを採用。増速時に足首をかき上げる動作で身体の重心が後ろにかからないことも利点)
***ST1000クラス : 最小限の改造とコストで参加できる参加型レースを基本理念に創設。一般生産型モーターサイクルで、一般市販車価格300万円(消費税含まず)以下のMFJ公認車両、600cc〜1000cc (4ストローク4気筒)、750cc〜1000cc(4ストローク3気筒)、850cc〜1200cc(4ストローク2気筒)の排気量、行程、気筒数のマシンで争われる。使用タイヤはダンロップのワンメイク。

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上下2枚の横位置写真撮影にはレーシングスタンドを使用しています(標準装備のスタンドはサイドスタンドのみとなります)。

 

CBR1000RR-R FIREBLADE 主要諸元
CBR1000RR-R FIREBLADE SP
読み シービーアール1000
アールアールアール
ファイアブレードエスピー
車名・型式 ホンダ・2BL-SC82
全長(mm) 2,100
全幅(mm) 745
全高(mm) 1,140
軸距(mm) 1,455
最低地上高(mm) 115
シート高(mm) 830
車両重量(kg) 201
乗車定員(人) 2
燃料消費率
(km/L)
国土交通省届出値: 21.0(60)〈2名乗車時〉
定地燃費値
(km/h)
WMTCモード値 16.0(クラス 3-2)〈1名乗車時〉
(クラス)
最小回転半径(m) 3.8
エンジン型式 SC82E
エンジン種類 水冷4ストロークDOHC4バルブ直列4気筒
総排気量(cm3 999
内径×行程(mm) 81.0×48.5
圧縮比 13.2
最高出力(kW [PS] /rpm) 160[218]/14,500
最大トルク(N・m [kgf・m] /rpm) 113[11.5]/12,500
燃料供給装置形式 電子式〈電子制御燃料噴射装置(PGM-DSFI)〉
使用燃料種類 無鉛プレミアムガソリン
始動方式 セルフ式
点火装置形式 フルトランジスタ式バッテリー点火
潤滑方式 圧送飛沫併用式
燃料タンク容量(L) 16
クラッチ形式 湿式多板コイルスプリング式
変速機形式 常時噛合式6段リターン
変速比 1速 2.615
2速 2.058
3速 1.7
4速 1.478
5速 1.333
6速 1.214
減速比(1次/2次) 1.630/2.500
キャスター角(度) 24゜00′
トレール量(mm) 102
タイヤ 120/70ZR17M/C(58W)
200/55ZR17M/C(78W)
ブレーキ形式 油圧式ダブルディスク
油圧式ディスク
懸架方式 テレスコピック式
(倒立サス/NPX Smart EC)
スイングアーム式
(プロリンク/TTX36 Smart EC)
フレーム形式 ダイヤモンド
カラー グランプリレッド
メーカー希望小売価格(消費税込み) 2,783,000円
(消費税抜本体価格 2,783,000円)
※SPと異なる諸元のみ掲載 CBR1000RR-R FIREBLADE
読み シービーアール1000
アールアールアール
ファイアブレード
懸架方式 テレスコピック式
(倒立サス/ビッグ・ピストン・
フォーク)
スイングアーム式
(プロリンク/バランス・フリー・
リアクッション・ライト)
カラー グランプリレッド
マットパールモリオンブラック
メーカー希望小売価格(消費税込み) 2,420,000円
(消費税抜本体価格 2,200,000円)

製品詳細 : https://www.honda.co.jp/CBR1000RRR/

 

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