木材をふんだんに使って建築された新国立競技場の外周を巻くように青山門、千駄ヶ谷門の前を通り外苑料金所から首都高4号新宿線下り車線に上がった。125cc以上の排気量を持つADV150の特権として高速道路を走りたかったからだ。
これまでもスクータータイプの2輪車で高速道路を走行したことはあったが、どれも大排気量車で動力性能に余裕があり、加速や高速走行で不安を感じたことは無かった。しかしADV150は高速道路上を走る乗り物の中では最小排気量に近い。周りを走るクルマたちに比べ馬力もトルクも劣るだろう。果たして安全・安心な走行は可能だろうか? 多少のドキドキとワクワクを抱きつつ都会のアドベンチャーが始まった。
無人料金所を通過して登りランプウェイを加速する。力強い加速感があり、これなら本線に入る前に後続車に迷惑をかけない車速域まで到達できることを実感する。ドキドキが少し減った。右にウィンカーを出し本線の走行車線に合流した。スムーズに流れに乗れたことでひと安心。クルマの流れに合わせての等速走行にも何の問題も不安も感じない。この状態から、加速、減速、ライン変更も意のままだ。
首都高4号新宿線下り車線は、明治神宮の北側を通過する場所が適度なS字コーナーになっている。上り車線に代々木PAがあるあの場所だ。都心に居ながらにしてわずかながらワインディングロードの走行気分が味わえる。ただし、車体や足回りに不安があっては台無しだ。ワクワク感もあるがドキドキ感もある。ADV150はどうだろうか?
心配は無用だった。いくつかののコーナーを抜けて甲州街道の真上のストレートに出た時には、不安は首都高を走る楽しみに変わっていた。前後油圧ディスクブレーキによる減速からの寝かし込み、そして寝かし込みを維持しながらの加速、加速を続けながらの切り返し、安定しているので2輪車だけが持つ操作感を純粋に楽しむことが出来た。コーナリング中に『結構寝ているな』などとワクワクしながら。
高井戸ICで首都高を降りた時には、ADV150で走る高速道路走行の不安は無くなっていた。走行距離は短かったものの、首都高の曲がりくねったコーナーにも路面の継ぎ目にもハンドルをとられるなどという不安を感じることは無かった。また、車速や加速が不十分なため周りの4輪車にいたずらに追い越され怖い思いをするということも無かった。これなら、高速道路使用が必要な時は躊躇なく利用することができる。高速道路弱者という不安は払拭された。ドキドキが解消している。
環状8号線に入る信号待ちで、走行風を感じるためにスクリーンをロー・ポジションに変更した。高速道路走行中は、風除けのため71mm高くなるハイ・ポジションにしていたのだ。両手でつまみを引くだけでスクリーンの高さはすぐに変えられる。シートに跨がったまま変更することも可能だ。
一般道に降りたADV150は、ポジションや足着き性、とりまわしの良さで気疲れせずに走ることができる。しっかりしたパイプフレームを持ち、ストロークを十分確保した前後サスペンションのおかげか、市街地の荒れた路面でも不安を感じるほど振られることもない。とにかく乗りやすいのだ。発表会では「販売台数を大きく上回る注文をいただいています」という紹介があったが、ここまで乗りやすければ期待を裏切ることはないだろう。

既存のスクーターデザインとは一線を画す外観。スクーターでありながらアクティブなアドベンチャーモデルを表現するための工夫がなされている。フレームメンバーを思わせるタンデムステップまわりのプレートはアクティブ感を演出する秀逸なデザイン
ひと昔前、オートバイといえばメカニズムが剥き出しになった機能美を誇り、スクーターは逆にメカニズムをボディに包み込みスマートさやエレガントさを感じさせたものだった。そんな住み分けも時代とともに変化してきたようだ。スクーターでありながら、アドベンチャーを感じさせるメカニズムやスタイルを随所に取り込み新たな魅力を作り出している。スクーターの手軽さ・乗りやすさは認めるものの、2輪車はもう少し機能美をアピールしたアドベンチャーであって欲しいという欲求を、ADV150はうまく満たしている。

スピードメーター内には、日付、時計、オイル交換インジケーター、オドメーター(トータル、トリップA、トリップB)、速度計、瞬間燃費計、平均燃費計、気温計、バッテリー電圧計が配置されている。筆者が首都高速を走っている際の平均燃費計は37km/ℓ台を表示していた

ホンダスマートキーシステムを採用。スマートキーを携帯してADV150に近づき、メインスイッチノブを回すことで、キー操作なしのエンジン始動やハンドルロックが可能。ウインカーが点滅し自車の位置を知らせるアンサーバック機能も備えている。シートとフューエルリッドの解錠操作は、メインスイッチノブ横のシーソー式スイッチでおこなう

シート下のラゲッジボックスは27ℓ。筆者が愛用しているアライVZ・RAM PLUSも干渉せずに収まった

燃料給油口はシート前の下方に位置する。メインスイッチノブ横のシーソー式スイッチでハッチがオープン

2ℓの容量があるフロントインナーボックス。小物入れとして便利。内部にはスマホが充電できるアクセサリーソケットが装備されている

左手ハンドルのスイッチは、ヘッドライトポジションの切り替えとホーン、そしてキャンセラー付きのウインカースイッチ

ホイールでもタフと精悍さを演出。フロントは12本、リアは10本のスポークホイールを新開発。タイヤはチューブレスを採用

水冷4ストローク149cc単気筒エンジンをメインとしたパワーユニットの駆動部分。環境性能と動力性能を高めたPCX150用エンジン(eSP)をベースにADV用としてさらに低中回転域のトルクを向上させている。eSPのステッカーが貼られた場所はエアクリーナーボックス

右側のタンデムステップ下に見えているのは水冷エンジンのラジエターカバー。その奥にラジエターフィンがのぞく

マフラーも路面や障害物等との干渉を避けるためのハイアップにして存在そのものをアピール。内部もパイプ構造やキャタライザーの配置最適化で走行や環境性能に寄与しているそうだ。さらにマフラーを上げたために露出したスイングアームやリアアクスル、ブレーキディスクやキャリパーなどにメカニズム感を演出するデザインが施されている

テールランプを点灯させ、さらにハザードランプを灯した写真。ウインカーにはハザードランプを高速点滅させることで急ブレーキをいち早く後続車に伝える「エマージェンシーストップシグナル」が採用されているそうだが、残念ながら試乗期間内では点滅させることが出来なかった。フロントブレーキもABSも効くところまでは試せなかった。筆者のブレーキングが甘すぎたようだ

ADV150の個性を印象付けるリザーバータンク付きのリアダンパー。ゴールドメッキタンクと「SHOWA」のステッカーが一際目を引く。スプリングはプログレッシブな荷重特性を持たせるため密、中、粗の3段巻き

タイヤはブロックパターンのチューブレスタイヤを採用。クロスオーバーの走りを支えつつ、ダート走行好きな筆者はこのパターンを見るだけで不整地に誘われている気がしてしまう
Honda ADV150 主要諸元 | |
車名・型式 | |
ホンダ・2BK-KF38 | |
全長/全幅/全高(mm) | |
1,960/760/1,150 | |
軸距(mm) | |
1325 | |
最低地上高(mm) | |
165 | |
シート高(mm) | |
795 | |
車両重量(kg) | |
134 | |
乗車定員(人) | |
2 | |
最小回転半径(m) | |
1.9 | |
エンジン型式 | |
KF38E | |
エンジン種類 | |
水冷4ストロークOHC単気筒 | |
総排気量(㎤) | |
149 | |
内径×行程(mm) | |
57.3×57.9 | |
圧縮比 | |
10.6 | |
最高出力(kW[PS]/rpm) | |
11[15]/8,500 | |
最大トルク(N・m[kgf・m]/rpm) | |
14[1.4]/6,500 | |
燃料消費率(km/L)国土交通省届出値:定地燃費値(km/h) | |
54.5(60)〈2名乗車時〉 | |
燃料消費率(km/L)WMTCモード値(クラス) | |
44.1(クラス 2-1)〈1名乗車時〉 | |
使用燃料種類 | |
無鉛ガソリン | |
始動方式 | |
セルフ式 | |
燃料供給装置形式 | |
電子式〈電子制御燃料噴射装置(PGM-FI)〉 | |
点火装置形式 | |
フルトランジスタ式バッテリー点火 | |
燃料タンク容量(L) | |
8.0 | |
変速機形式 | |
無段変速式(Vマチック) | |
タイヤ | 前:110/80-14M/C 53P |
後:130/70-13M/C 57P | |
ブレーキ形式 | 前:油圧式ディスク |
後:油圧式ディスク | |
懸架方式 | 前:テレスコピック式 |
後:ユニットスイング式 | |
フレーム形式 | |
ダブルクレードル | |
車体色 | マットメテオライトブラウンメタリック |
マットガンパウダーブラックメタリック | |
ゲイエティ―レッド | |
メーカー希望小売価格 | |
¥451,000(消費税込み) | |
製品詳細情報は:https://www.honda.co.jp/ADV150/ |

ADV150のカラーリングは3色。手前からブラウン、レッド、ブラック。正式名称は、マットメテオライトブラウンメタリック、ゲイエティ―レッド、マットガンパウダーブラックメタリック。レッドのみタンデムグラブバー下の立体ロゴデザイン「ADV150」のエンブレムが入らない
さて週末は、首都高速の環状線を抜けてお台場方面に出かけてみようか? それとも林道含みのツーリングに出かけてみようか? ドキドキとワクワクがこころの中でまた始まった。
Photos/原 富治雄 Text/古谷 重治
原 富治雄カメラマン撮影のホンダADV150はTRCTIONSのインスタグラムでも公開しています。