アドベンチャーの光

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Photo/原 富治雄

冷たい雨が落ちている。西高東低の冬型気圧配置ながら、太平洋側も雨雲が覆っていた。天気が好転する日を先週末から待っている。夕方「明日決行」というLINEがディレクターの森さんから入った。撮影できそうな地域に出向き、ロケハンしながら撮影ポイントを絞り込むという現地合わせの計画だ。翌朝、集合場所に向かうため調布から中央高速に乗った。正面に、まとった雪を太陽の光で輝かせた富士山が現れた。空気も澄んでいる。『今日は、絶好の撮影日和かも知れない』。

朝から、原 富治雄カメラマンは日没の時間を気にかけていた。冬は陽が落ちるのが早い。16時30分がその時刻だった。

撮影車両は、つい先日国内での技術説明&試乗会が行なわれたHonda CRF1100L Africa Twin のAdventure Sports ES Dual Clutch Transmissionモデル、車体色はダークネスブラックメタリックだ。撮影ポイントまでの道中、新型アフリカツインの進化に感銘している森さんや、今回車両搬送係として参加した私から、原カメラマンはいやと言うほどその良さを聞かされることになる。排気量が大きくなったにもかかわらず軽量化され、さらにポジションの見直しなどにより一層扱いやすい。最先端技術の進化したDCTや電子制御サスペンションも装備している。だから乗っていて楽しくて仕方がない。「CRF1000Lの誕生から4年も経っていないのによく作り上げている。ホンダ設計陣の底力だね」というのが私たちの感想だ。原カメラマンは、力説する森さんや私の話を静かに聞きながら微笑んでいる。

冬の光が降り注ぐ中、いくつかのロケーションで撮影が進み、しかし、期待していた別の複数のポイントでは行ってはみたものの撮影の条件が満たされず、見送らざるを得なかった。昼が過ぎた。午後になると時間の経過が早い。もう何箇所も回れないだろう。もうひとつの候補地として挙げていた須走・御殿場周辺でもロケーションと光を求めて走り回ったものの成果は得られなかった。空気が冷えてきた。あと1時間半ほどで日没を迎える。

半島の尾根に到着した時にはまだ太陽が出ていた。西の空低く水平線の上に赤く染まっている。もうしばらくで日没を迎える。原カメラマンは残された光を拾うかのように、被写体に近づいたり離れたりしながらいくつかのカットを撮影している。そうしている間にも太陽は水平線にかかりみるみるうちに消えてしまった。光を失った尾根に夜のとばりが降り始める。

『本日の撮影終了か』と思った矢先、原カメラマンが動き始めた。チェックが厳しくなる。バイクの位置、車体傾斜度、ハンドルの向きなどなど。ひと通りのセッティングが済むと、おもむろにシャッターを切った。バイクの色はブラックだ。闇に溶け込みシルエットすら覚束ない。『果たしてこんな条件でカメラは画像を結ぶのだろうか?』。素人には仕上がりが想像できない。

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「太陽が完全に沈み、でも大気を照らしている日没後の10分ぐらいの間がシャッターチャンス」。帰路、クルマの中で原カメラマンが教えてくれた。そうか『朝から陽が沈むのを待っていたのか…』。素人の心配をよそに仕上がった写真には、アドベンチャーへのいざないの光が見事に浮かび上がり、さらには説明会後の記念写真に応じた技術陣の笑顔も写し込まれているような傑作だった。

(フルヤ シゲハル)

(原 富治雄カメラマンのバイク・ベストショット集は近々インスタグラムでも公開予定です)

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